ビジネス活用シーン

ブランドリニューアルで、選ばれ続けるホテルを目指して

浜本康夫氏(右)と榎本花子氏 (左)

都ホテルズ&リゾーツは、京都を代表する老舗ホテル、都ホテルを発祥とするホテルグループである。
2019年4月、経営環境の劇的な変化に対応し、ホテルグループとしての持続的な発展を目指して、ホテルブランドをリニューアル。その新たなブランド戦略において、重要な役割を担う各種媒体の主要フォントに「ヒラギノ角ゴシック体 W2/W4/W6」が採用されている。このブランド再構築プロジェクトに携わった株式会社近鉄・都ホテルズの浜本康夫氏と榎本花子氏に話を聞いた。

ブランドリニューアルのきっかけ

都ホテルズ&リゾーツの歴史は、1890(明治23)年に京都の蹴上で創業した吉水園に始まる。1900(明治33)年に都ホテル(現在のウェスティン都ホテル京都)を開業、1963(昭和38)年に近鉄・都ホテルチェーンが発足し、近鉄沿線をはじめとする都市部に、宴会場やレストランを備え、婚礼にも対応できるフルサービスホテルを次々に開業していった。
現在の都ホテルズ&リゾーツに改称されたのは1999年。当時はブランドという意識も希薄で、名称の違いはもとより、フルサービス型やリゾート型など業態もさまざま。「大手ホテルグループとして成長を遂げながら、横の連携は十分に取れていなかった」と営業推進部課長の浜本康夫氏は振り返る。結果、地域での知名度や評価は高いものの、都ホテルというブランドや全体に共通するイメージが定着しないまま現在に至ったという。
「私たちが海外へ出るとき“シェラトン”と聞けば、どの国でも空間やサービスのイメージが湧き、安心感を持てるはずです。逆に、海外の方が“都ホテル”と聞いたとき、どんなイメージを持つのでしょうか。同業他社と差別化を図り、国内外を問わず、都ホテルズ&リゾーツをどう認知していただくのか。ブランドリニューアルは、その答えを求めてスタートしました」(浜本氏)

核となったのはホテルの伝統、そして進取の気風

ホテル運営本部 営業推進部 課長
浜本 康夫氏

ブランドをリニューアルする上で考え方の核となったのが、これまで培ってきた「伝統と歴史に裏打ちされたおもてなしの精神」と「進取の気風」である。事実、同グループのルーツとなった京都の都ホテルは、ノーベル賞作家の川端康成が生前こよなく愛し、常宿としていたホテルであり、三重県の志摩観光ホテルは、皇室をはじめ数え切れない国公賓を迎え入れてきた。
また、グループホテルのチェーン化、列車食堂への進出、社員の海外派遣など、常に時代や業界に先駆け、新しいことに取り組んでいこうとする「進取の精神」が社内に浸透しており、こうした実績や取り組みは、2016年の先進国首脳会議(G7伊勢志摩サミット2016)の会場として志摩観光ホテルが選ばれるという形で実を結ぶ。この、国を挙げての一大行事に同グループのホテルが選ばれ、その成功に一端ながら貢献し、自信を得たことで、今回のブランドリニューアルに拍車が掛かったという。
「しっかりとしたサービスを根幹に据えながら、常に新しいことに挑戦し、変わり続けてきたからこそ、お客さまに長く愛されてきました。これが、グループの目指し続ける姿であり、同時に、お客さまに抱いていただきたいイメージなのです」と浜本氏は語る。

ブランド再構築への取り組み

ホテル運営本部 営業推進部
榎本 花子氏

フェーズ1として、まず、社員・役員・お客さまを対象としたイメージ調査を実施。社内での調査では、「近鉄グループ」であることや「歴史や伝統、信頼」が強みである一方で、「国際的なイメージが弱い」といった結果が出た。また、お客さまへの調査では、「知名度、高級感、サービス」といった面では他のホテルに比べて多少低い結果が出たものの、「温かいサービス、伝統、品格」といった点においては、他社よりも良いイメージを強く持たれていることが分かった。グループとして伸ばしていくべき強みはこの点である、と認識。それが「繊細な心配りと培われた品位が生み出す心あたたまる時間」というブランドコンセプトへとつながっていく。
続いて、同じグループホテルでありながら、複数のブランドが混在していた体系を整理するため、伝統と品格を重んじた都市型のフルサービスホテル「都ホテル」、よりスマートに都市の滞在を楽しむ宿泊主体の「都シティ」、そして自然や地元食材を使った料理を活かしたホテル「都リゾート」へと、サービススタイルの違いを基にカテゴリー分けが進められた。
フェーズ2としては、カテゴリーに合わせたシンボルマークやロゴの開発をはじめ、ブランド確立に向けたトーン&マナーに関するガイドラインの作成が進められた。以前は、都ホテルズ&リゾーツとして共通したロゴがあり、使用も規定されていたが、それ以外の表現については各ホテルに任されていた。
「それぞれが地域の特性を活かし、素晴らしいものをつくっていましたが、都ホテルとしての打ち出しは弱かったんです。そこを確かにしていくことが今回のプロジェクトの狙いでした。数十年をかけて定着してきた個々のスタンダードを変えることは容易ではありませんが、ホテルの目指す姿とお客さまのイメージを一致させることが双方の利益になると考えました」と営業推進部の榎本花子氏は語る。
最終段階として、それまでに整理してきたブランドコンセプトや体系などを一冊のガイドラインにまとめる作業に加え、接客の標準化を目指すためのマニュアルや研修マニュアルの作成も進められ、各ホテルでの実践的なトレーニングも重ねられていった。他にも、規定されたトーン&マナーに合わせて、館内でお客さまの目に触れるアイテムのデザイン開発も進められた。

ブランド指定フォントに「ヒラギノ角ゴ」を採用

「私たちの想いを専門のコンサル会社に託し、表現に関するガイドラインの制作を依頼しました。フォントは、都ホテルズ&リゾーツのイメージを表現する上で重要な要素の一つでしたので、数多くの候補から選定していきました。伝統や品格を表現でき、なおかつシンプルでモダンな「ヒラギノ角ゴ」は、まさに私たちの求めるイメージに最適。使いやすさも備えており、ブランド指定フォントとして採用に至りました」と浜本氏は語る。ヒラギノは、フトコロがやや広めで明るく設定されているのが特長。「枠の中に余裕を持った文字にすることで、お客さまに明るい印象を与えられることも決め手でした」(榎本氏)
「ヒラギノ角ゴ W2/W4/W6」は、各種パンフレットやPR誌などのあらゆる媒体に使用され、見出しから本文まで、幅広い表現ができるようになった。印象的な画像を中心に紹介する媒体とは特に相性が良いと社内で高評価を得ており、各ホテルで作成されるイベント紹介のチラシに至るまで、印刷物全般での使用が規定され、デジタル分野のメディアでも推奨されている。

時間とともにブランド価値を高めていく

同グループでは、2019年3月末から4月1日にかけて朝日新聞や読売新聞でブランドリニューアルを訴求する全面広告を展開。また、SNS上でも大規模なブランドリニューアルプロモーションを実施した。グループのどのホテルへ行っても、統一されたおもてなしで素晴らしい体験ができることを伝えるために、ホテルをイメージさせる写真と一新されたロゴなどを掲載し、「生まれ変わります」というキャッチフレーズと共にその想いを広く伝えた。本当の評価はこれからだが、ご覧になった多くの方から「都ホテルズ&リゾーツというホテルグループを再認識した」「洗練されたイメージに変わった、泊まってみたい」などの声が上がったという。
ブランディングのコンセプトは、目に見えるものだけではなく、ロビーに流れている音楽や漂う香りにまで貫かれている。「どのホテルへ行っても、五感を通じて“繊細な心配りと培われた品位が生み出す心あたたまる時間”を体験していただき、グループ内のいろんなホテルを訪れてみようと思っていただけるお客さまが増えることが一つの成果。5年、10年と、時間とともにブランドの価値を高めていきたいと考えています」(浜本氏)

会社概要
株式会社近鉄・都ホテルズ
住   所:〒543-0001 大阪市天王寺区上本町6-1-55
代 表 者:中山 勉
設   立:2004年12月

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